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生物多様性と自然環境保全

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生物多様性と私たちの生活

生物多様性や絶滅危惧種という言葉を最近よく耳にします。普通に生活している場合、これらの事を気にせず生活できました。しかし、マグロやウナギなど私たちに身近な食品が絶滅危惧種に指定されるとマスコミにも大きく取り上げられ大騒ぎとなりました。私たちの生活の一部は野生動植物に依存している部分があることを痛感します。

資源としての生物

食品として
ニホンウナギ Anguilla japonica
絶滅危惧IB類(EN)(環境省レッドリスト)

日本人の食生活には野生動植物が深くかかわっています。特に水産資源は野生動物を捕獲し、食している訳ですから、それらの生物が絶滅し、生物の種類数が減る(生物多様性の減少)ことは、食卓に上がる食品の多様性も減少してしまうということになります。特に話題のウナギは完全に養殖することが技術的に難しい点があり、捕獲禁止や絶滅という事態になってしまうと「土用の丑の日」の文化も過去のものとなってしまいます。

医薬品の開発資源として
センブリ Swertia japonica
県によって絶滅危惧に指定されている

我々が使用する医薬品の開発には野生動植物が必要不可欠とされています。医薬品で野生動植物由来の原料を使用しているものは少なくありません。薬効のある化学物質をゼロから化学合成するとなると、天文学的な確率になってしまいます。しかし、生物中に含まれている薬効成分を抽出し、人工的に合成できるようにするほうが圧倒的に有利になります。まだ、世界には薬に出来るような生物がいるかもしれないのに絶滅させてしまえば人類にとって大きな損失となります。

生物多様性とは

生物多様性とは一般的に「ある地域の生物種の数が多いこと」を指すが、これを維持するためには下記に記す3つのレベルでの見方と保全が必要であるとされている。

生物多様性の3つのレベル

景観レベルでの多様性
中山間地の棚田
多様な生き物の生息場所となっている

地域の中に山、川、森、水田など様々な環境が無ければ、その地域に生息する動植物の種類は貧弱になってしまうという考え方です。言い換えれば様々な生態系を育む環境の多様性が必要であるということです。これを評価するには人工衛星画像やGIS(地理情報システム)という技術を使います。これらを専門的に扱う分野を景観生態学と言います。

種レベルでの多様性
当校の周囲で確認できるトンボの標本
本県はトンボの数だけで100種類!

生物多様性の中でもよく話題に上がるのがこの種レベルでの多様性で「種の多様性」と呼ばれます。これを評価するには生物相※1の調査をしどれくらいの生物種が生息するかで種の多様度が分かります。生物調査を伴う環境調査では定番の調査項目です。注意が必要なのは生物相の種類数が多ければよいというわけではなく、外来生物の種数を除いた生物の数が多くなければ意味がありません。
自然環境保全科・自然環境研究科のカリキュラムではこの生物相調査を業務としてできるレベルを目指しています。

用語解説
※1 動物の場合ファウナ、植物の場合フロラと呼ばれる。特定地域内に生息する動植物を調査しリストを作成することを生物相調査という。
遺伝子レベルでの多様性
全てナミテントウHarmonia axyridis
遺伝子の違いにより個体の模様は異なる

生物の形を作っているのは遺伝子です。特定の種類でも個体により異なる遺伝子を持つことが一般的です。同じ種類の中でも多くの種類の遺伝子があるほうが良いという考え方が「遺伝的多様性」と言います。生物多様性について理系の大学で行われている主要なものがこれらの遺伝子解析です。大学で生物をやってきて本校に入学する人は「特定の生物の遺伝子については専門的に分かります」が、環境調査のための生物の知識は・・・。ということが多いようです。
ちなみに自然環境研究科の3年次には少しだけDNAの実験をします。

絶滅に瀕する生物たち

絶滅のスピードが早まっている

三葉虫の化石
生物の歴史は進化と絶滅の歴史

地球上の生物は絶滅の歴史と言っても過言ではありません。氷河期などの地球規模の気候変動により、多くの生物が大量絶滅したとされています。近年の国連の推計では地球の過去の歴史の中で生物が絶滅割合は100年間で100万種あたり10~100種が絶滅したとされています。しかし、今日から過去100年間では100万種(換算)あたり5,000種が絶滅したとされています。人間が近代的な活動を始めたため絶滅の速度が約50倍にもなってしまっているのです。

絶滅の要因

レブンアツモリソウ
Cypripedium marcanthum
var. rebunense
種の保存法で採取・取引が規制される

国内の絶滅危惧生物のうちおよそ半数が維管束植物が占めています。その植物のうち、特にランの仲間は園芸目的の乱獲※2により絶滅の危機に瀕している種類が多いです。全体の絶滅の要因で一番多いのは開発行為による生育地の滅失です。湿地の埋め立てや土地の造成など人間の直接的な行為により生育地を奪われる植物が後を絶ちません。その他の要因は人が里山や草原の管理を行わなくなり、自然遷移により生育に適す環境が無くなることもあります。人と関わらなければ生きていけない生物もいるということです。

用語解説
※2 専門用語では盗掘と言う。全ての園芸業者が山取りで販売している訳ではなく、一部の悪質な業者やマニアの行為が問題視されている。

生物多様性を守るために

現状の把握と保全

実習では生物相の調査方法についても詳しく行う

大規模な開発行為の前には環境アセスメントを行い、どのような生物が生息していて開発の影響がどの程度あるのかを評価します。もし、ここで正しい調査が出来なければその地域で姿を消す生物が出てしまう恐れがあるます。調査・評価の結果、影響があると評価された場合、影響緩和策や保全対策計画を立て実施する必要があります。

自然環境・生態系の修復

ビオトープの手法を使って生物の生息環境を整えるのも有効な手段

すでに生態系のバランスが崩れている環境では、積極的に生態系の修復を試みるのが良いと思います。ただし、生態系に何らかの工事やアクションを起こす前と後でしっかりと生物や環境についての調査・記録を行い、検証をしながら豊かな生態系を模索するのが大切です。これには専門的な高い技術と長い時間がかかるので粘り強く行う忍耐力も必要です。
自然環境保全科・自然環境研究科ではこれら調査~環境修復技術について深く実践的に行います。