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下越地域の一部に生息する
ハムシの不明種

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下越地域の一部に生息するハムシの不明種

日本自然環境専門学校 講師 須藤弘之 

1.初めて見るハムシ

 私が「このハムシ」を初めて見たのは2022年8月末でした。 当時の学生が「〇〇(地名は伏せます)にオオルリハムシがいる」との報告がありました。オオルリハムシの食草であるシロネなどが全くない場所だったので、半信半疑で現地へ行ってみると、コンクリート護岸の隙間から生えたガガイモに大きな緑色のハムシが付いていました。

確かに大きさと色はオオルリハムシみたいですが、一見して形が違うのが分かりました。それでは一体何だろうか?図鑑を眺めるとオオミドリサルハムシ、オオサルハムシと似ていますが…。

撮影:2024年8月6日
2.似ている在来既知2種の標本と見比べる

 「このハムシ」への関心も薄れていた2023年秋、その年の夏に新潟県内では久しぶりにオオサルハムシ(図中①)が柏崎市で採れたとの情報が入りました。

また、本校の学生が実習地などで度々「このハムシ」を採集してくることもあって、「少しは調べなければいけないかな」という気持ちになりました。 

2024年8月、私は重い腰をあげ、「このハムシ」と借用したオオサルハムシの標本を長岡市立科学博物館に持ち込み、博物館のオオミドリサルハムシ(図中②)を加え、昆虫の専門家2人と実体顕微鏡を覗き比較検討しました。

その結果、「このハムシ」はオオサルハムシとオオミドリサルハムシとは別種で、おそらく外来種だろうという結論になりました。なお、「このハムシ」はハムシ研究者らに知られた存在で、既に種名が判明しているかもしれません。

①オオサルハムシ(柏崎市産)
②オオミドリサルハムシ(沖縄本島産)
③不明種(新潟市産)
3.既知2種との違い

オオミドリサルハムシPlatycorynus japonicus (JACOBY)とオオサルハムシChrysochus chinensis BALYは、属が異なります。日本産は、それぞれ1属1種です。木元新作・滝沢春雄(1994)の「日本産ハムシ類幼虫・成虫分類図説」によると、各属の検索は次のとおりです。

オオサルハムシ属Chrysochus 
→ 複眼上部の溝は深く、比較的狭い

オオミドリサルハムシ属Platycorynu  
→ 複眼上部の溝は深く、比較的広い

また、各種の主な特徴は次のとおりです。

オオサルハムシ → 跗節の爪は、先端で2分、複眼の後方に明瞭な溝をよそおう

オオミドリサルハムシ → 跗節の爪は、単純

不明種は、跗節の爪が先端で2分されており、まずオオミドリサルハムシではないことが分かりました。 次に、オオサルハムシと比較すると、複眼後方の溝は明瞭ではなく、複眼上部の溝も形状が異なることから、やはり別種と判断しました。

また、複眼上部の溝はどちらかというとオオミドリサルハムシと似ており、不明種はオオミドリハムシ属の方ではないかと思っています。なお、 J.L.Gressitt and S.Kimoto(1961)のPACIFIC INSECTS MONOGRAPH 1A The Chrysomelidae(Coleopt.)of China and Korea Part 1 によると、オオミドリサルハムシ属には跗節の爪が単純な種と先端が2分される種の両方が含まれています。

 
4.下越地域における生息状況
現在このハムシは、新潟市、阿賀野市及び新発田市、主に阿賀野川河川敷で確認されています。成虫は夏から秋まで見られ、ガガイモの葉を食べています。生息地における個体数は多いです。
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